電池管5球高1スーパー2ウェイラジオ


(左がAC/DCの2ウェイ、右は前作のDC1ウェイ)

 真空管ラジオ用の部品を集めるのはなかなか困難になり、あってもかなり高価になってきました。そこで今回はコイル、IFTなどは自作するか、トランジスタ用のものを流用しようと考えました。バリコンをどうしようかと秋葉原で探していたところ、内田ラジオさんで見つけた米国製中古の3連バリコンが手ごろな値段(2連バリコンとほぼ同等)だったので、これを購入しました。容量を測定したところ、最小12pFから最大が540pFくらいと大き目なので、ANTコイルをループコイルにしようと考えました。大きなループコイルにすると感度は良くなると思いますが、コイルが持つ浮遊容量も増えるので、最大容量の大きなバリコンを用いないと周波数帯をカバーできなくなるおそれがあります。最大容量が大き目のバリコンとループアンテナを使ってうまく設計すれば、バーアンテナを用いなくても感度の良いポータブルができると考えた訳です。


裏ぶたのアクリル板がヒンジで下に倒れます。
この裏ぶたがループアンテナになっています。
 高周波増幅1段付きのスーパーラジオで、ANTコイルはループコイルを自作、RFコイルとOSCコイルはトランジスタ用のOSCコイルを改造、PC(パディングコンデンサ)にはトランジスタ用のポリバリコンを流用、IFTはトランジスタ用を流用
と、基本仕様を固めたところで、さっそくループコイルの製作に取りかかりました。約30cm四方のアクリル板の周囲に1cm程の切れ込みを入れ、ここに0.5mm径のホルマル線を巻いていきます。ここで切れ込みの総数を奇数にしておくのがミソで、浮遊容量を少なくするために、スパイダーコイルのように一周ごとに巻き線がアクリル板の表と裏を交互に通るようにします。事前の計算で170uH前後のインダクタンスを目標としていましたが、15周巻いたところで163uHとなったので、とりあえずこれで良しとしました。
 
 ここでANT、RF、OSCの各コイルを詳しく設計します。下のように、表計算ソフトで各コイルの同調周波数とトラッキングエラーを計算してグラフ化できるようにしておくと便利です。ここで各コイルのインダクタンスやPC、トリマコンデンサの容量をいろいろ変えてみた結果、下の表の値に落ち着きました。浮遊容量はあくまで仮定ですが、もしこの設計どおりになれば、トラッキングエラーは5kHz以内にできる見込みです。



 RFコイルの設計値は(当然ながら)ANTと同じ163uHで、トランジスタ用OSCコイルの1次側を25回ほどくことにしました。またOSCコイルの設計値は87uHで、トランジスタ用OSCコイルを35回ほどきました。(なおどちらのコイルもコアがかなり抜けたところで所要のインダクタンスとなったので、それぞれ更に5回くらいほどいても良かったようです。) PCは500〜600pF必要になりそうなので、ポリバリコン(最大260pF)と400pF相当の固定コンデンサを並列にしました。IFTはトランジスタ用を2次側も使うのは耐圧に不安があるので、1次側のみ2個ずつ使ってコンデンサ結合としました。


 ところで全体形状ですが、ループアンテナが約30cm角ありますので(この大きさ自体は適当に勘で決めたのですが)、ポータブルラジオとしてはかなり大きくなってしまいます。そこでポータブルというより半据え置きで、たまに持ち出しても使えるというコンセプトとし、電源は電池とAC電源の2ウェイとすることにしました。しかしそれにしても、部品を配置してみるとスペースに余裕がありすぎるので、手許にあった小さな電池時計を入れることにしました。この時計は単に入れただけでラジオの機能とは無関係ですが、ラジオと時計は一緒にあった方が便利だと考えました。家内は「まるで時□爆弾のようだ」と言いますが(確かに時計と電池と怪しげな電気回路が同居していると・・・)

 構造配置は、正面からの写真で大体わかると思いますが、アクリル板で作ったケースの中に上下2枚のアルミ板を配して、これらにほとんどの部品を取り付けてあります。下のアルミ板の下面にトランスなど電源部が、上面に3連バリコン、PC(ポリバリコン)、出力トランスがあります。上のアルミ板に真空管と主要回路があり、ここからぶら下げた平ラグ板にRFコイル、OSCコイル、IFTが取り付けてあります。全体寸法は正面から見ると32cm四方で、奥行きは約8cmしかありませんが、重い部品を下のほうに配置してありますので安定性はあります。


 左の写真は裏側から見たところです。上側のアルミ板からぶらさげてある平ラグ板には、左下の写真のように、左からRFコイル、OSCコイル、IFT(1)2個、及びIFT(2)2個を取り付けてあります。

 また下の写真のように、バリコンの裏側にはRFとOSCのトリマ、その右にはトランジスタ用ポリバリコン流用のPCを配置してあります。


 回路図は下のとおりです。まず電源回路ですが、ACによるB電源はトランスレスでも良かったのですが、感電防止と若干の電圧調整を兼ねて絶縁トランスを用いることにしました。A電源には6.3Vのヒータートランスを用いることにしましたが、これですと電圧がギリギリです。はじめはブリッジ整流にしたかったのですが、ダイオード1個分の電圧降下をリップルフィルタに振り分けたほうが結果的にリップルは減るのではないかと考え、半波整流でフィルタ2段としました。なおA電源、B電源とも電源OFF後のコンデンサ放電用の抵抗を入れてありますが、B電源の放電抵抗は電源ON中も5mA程度の多少大きな電流が流れるようにしてあります。これはAVCの効き具合で結構B電流が変化するので、これに応じてB電圧が変動するのをなるべく少なくするためです。(電気を無駄に熱にして捨てており、省エネには反しますが・・・)



 B電圧は90V程度を基準として、各真空管の動作は最大定格に近いところを狙ってみることにしました(電池は006P(9V)を10個直列)。バイアスもある程度きちんと考えて、フィラメントからプレート+SG電流を逃がす抵抗を設定しました(このあたりについては原科さんのホームページが大変参考になりました)。結果としてAC100V電源時にB電圧は約85Vでほぼ意図どおりとなりましたが、A電圧は約7Vとなり、フィラメント1管あたり1.2V(3S4は2.4V)くらいで、少し低めになってしまいました(狙いは1管あたり1.3Vでした)。A電源はもう少し適当なトランスを使うなど一考の余地はありそうです。ただしハムノイズは全くと言っていいほど感じられません。

 とりあえず電源を入れてみると、RFとOSCのコイル、トリマ、PCは設計値に設定してありますが無調整の状態で、下はNHK東京第1(594kHz)から在京各局、上は栃木放送(1530kHz)まで受信することができました。これから調整を行いますが、その結果などはあらためてご紹介したいと思います。
2006.2.12

 その調整ですが、まずIFTの4つのコアを455kHz付近に合わせました。この状態で周波数の低いところは申し分無く受信できましたが、周波数が高くなるにつれて感度が若干低下するように感じられました。そこで次にトラッキング調整ですが、上の方の表計算ソフト(EXCEL)で各コイルを設計した際に、不確定な要素は浮遊容量、特にANTコイル周りの浮遊容量が仮定と違っている可能性が高いと思われました。そこで、この表計算でANTコイルの浮遊容量を少し変えてみると、特に周波数の高いところのトラッキングが大きくずれることがわかり、これは実際の状態にかなり近いと思われました。これを矯正するにはOSCのコア、トリマ、或いはPCを調整することが考えられますが、表計算をいじってみるとトリマを調整するのが最も効果があることがわかりました。そこでAVC電圧を見ながらOSCのトリマを少しずつ動かしてはバリコンで同調をとり直していくと、トリマを少し(数pF程度)増やしたところで高周波側の感度が高くなり、低周波側と同程度となりました(ANTコイル周りの浮遊容量が仮定より数pF大きいものと考えられます)。更にRFのトリマも少し増やして(ANT側と同調を合わせて)、全体にほぼ満足の行く感度となりました。

 以上のように、表計算ソフトなどでトラッキングを計算して同時にグラフ化することにより、どこを調整するとどうなるかが即座にわかるので、調整が大変やりやすくなります。是非こういう計算をしてみることをおすすめします。もっともこれは私のオリジナルでは無く、原科さんがホームページで紹介されている方法を真似たのですが・・・。


右より左の方が、ずっと感度は良い。
 ところで少し前にCD・MDラジオを購入したのですが、どうもバーアンテナを内蔵していないようで(デジタル回路との干渉を避けるためでしょうか)、AMラジオを聞く場合は付属のループアンテナなどの外部アンテナを繋がないと聞こえませんと取扱説明書に書いてあります。確かに何もアンテナを繋がないとAMは殆ど聞こえませんし、付属のちゃちなループアンテナを繋いでも当地では感度は今ひとつです。左の写真のように並べて使ってみましたが、ループアンテナの大きさの違いのためか、今回の5球ラジオの方が高感度です。(どうもMD付きのラジオは、どれも外部アンテナが必要なようです。MD無しのCDラジカセなどはバーアンテナを内蔵しているようですが。)

 また今回は3S4の動作を最大定格近くに設定しましたし、スピーカーも直径約10cmで2Wクラスのものを使いましたので、音量・音質とも豊かで十分なものとなりました。IFTにトランジスタ用をそのまま流用したのでインダクタンス不足を心配したのですが、実用上はあまり問題無いようです。OSCコイルもトランジスタ用を少しほどいたものですが、問題無く発振しています。とにかく今回は大変満足できるラジオができました。

追記 2006.2.19


 その後、各部の電圧・電流を計測し、プレートやSGの電圧・電流が意図と違ったところは、SG抵抗やヒーターからプレート+SG電流を逃がす抵抗などを調整しました(それに合わせて上の回路図も修正しました)。ここでRF段やIF段のSG電圧が無信号時は少し低めですが、AVCが効いてSG電流が減ると電圧は70V近くまで上昇します。

 またRF段のプレート+SG電流を計測する同調指示メータをつけました(左の写真)。同調すると電流が減って逆振れになりますので、メータは上下逆さまに取り付けてあります。RF段につけたのは、IF段よりAVCによる変化が大きいためです。

追記 2006.2.25

 その後、同調指示メータをさらに判りやすいものにしようとあれこれ考えました。今のメータはプレート及びSG電流を直接測っているので逆振れで、また特にリモートカットオフ管だと電流がなかなかゼロ近くにはならないので、メータの振れ幅いっぱいを使うことが出来ません(振れ幅の3分の1くらいしか使わない)。そこで昔の文献などを参考に、順振れでメータがなるべくいっぱいに振れる回路に組み換えました。


 左の回路図のように、B電源を抵抗で分圧してX点の電位を作り出し、これを基準にY点の電位(プレート回路に入れた抵抗の電圧降下)を測るような回路です。無信号時にIpが最大となりますが、このときX点とY点が同電位になってメータが振れないように(Im=0となるように)VR1を調整します。ここからAVCが効いてIpが減るとY点の電位が上がろうとするので、Imが流れるようになります。想定するIpの最小値においてメータがほぼフルに振れるようにVR2を調整します。

 今回使用しているメータはフルレンジ0.5mA程度の小型のVUメータですが、メータの諸元(最大電流と内部抵抗)を計測/仮定し、Ipが最大と最小の状態で各点間に流れる電流と電位差の関係についていくつか式を立てて、ここからIbを消去すれば、各抵抗をどのくらいの値にすれば良いかが計算できます。回路図ではゼロ点調整と感度調整に2つのVRを使うことにしていますが、手許に適当なVRが無かったので、計算で求めた抵抗値に近い固定抵抗で代用しました。

 メータの天地も取り付け直して試したところ、思った通りに振れるようになりました。欠点をあげればX点の基準電圧を作るために常に電流(Ib)を流して消費していること(今回は最大3mA弱)、また電池を消費してB電圧が変化すると、ゼロ点などがずれてくる可能性があることでしょうか。そういう意味で電池電源にはあまり向かない方法かもしれませんが、AC電源ではあまり問題ありません。なお電源投入直後は真空管が作動するまでIpが流れないのでY点の電位が下がらずメータが一瞬振り切れますが、電池管はすぐに作動するので、メータもすぐに正常作動するようになります。
追記 2006.3.5

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