憧れの名機たち

 ラジオ少年時代にたまに雑誌などで見かける米国製の受信機は、まさに夢の名機でした。もちろん手に入れることなど出来るはずもなく、ただ指をくわえて見ているだけだったのですが、それから40年近くが経過して、今や中古市場で何とか入手できるようになったのは、夢が実現したかのような錯覚を覚えます。「自作ラジオの製作の参考にするため」という理由をつけて(何も無理に理由をつけなくても良いのですが)、いくつか手に入れたものを紹介してみようと思います。

Collins R-388/URR (51J-3)




 なんといっても一番の憧れはコリンズでした。私が雑誌などで見ていたのは、おそらくこの51Jではなくアマチュア用の75Aで、また既に米国ではSラインの時代に入っていたと思うのですが、この大型の扇型ダイヤルをはじめとする堂々としたスタイルは、当時の日本の粗末な印刷物の写真でも大変魅力的に見えました。実際に手に入れて、なんと複雑怪奇なものをしっかりした作りに仕上げてあることか驚かされます。

 本機にはUS ARMYの銘板があり、あちこちぶつけたような跡があったり外観は相当くたびれていて、かなり酷使されてきたようです。しかし整備もしっかり行われていたのか、50数年前のものが問題なく機能しています。いわゆるコリンズ方式が確立されて間もない頃のものと思いますが、機能・性能を追求した結果、ここまで精密かつ頑丈な物を設計・製造するパワーには敬服する限りです。ダイアルタッチは決して良くはありませんが、これだけ複雑な機構を動かすのですから仕方ないかと思います。むしろ全周波数帯で同一スケールかつリニアな周波数表示をアナログ回路と精密メカで実現しているのは驚異的でした。(現代のデジタルシンセサイザ機ではあたりまえですが・・・)

Collins R-390A/URR
(manufactured by Motorola)



 この機種が第一線で活躍していた頃、私はその存在すら知りませんでしたが、当時軍用の最高峰機種ですから一般には詳細が知らされなかったのは当然でしょう。古典的コリンズタイプの究極の機種と言えると思います。現代の機種に比べて混信排除やSSBの受信機能において劣るのは仕方ありませんが、感度や安定度、再現性などは抜群で、真空管のアナログ回路でよくここまで出来たものだと思います。

 はじめ見た時に、周波数表示が一見デジタル的なのが古い人間にはなじみにくく思ったのですが、操作してみるとまったくのアナログ感覚で問題ありません。これまた複雑な同調機構ですから、もちろんR-388と同様にダイアルタッチは良い方ではありませんが、1kHzの1/5まで刻まれている目盛りがスムーズに動く様を見ていると、タッチがどうのこうのという議論はどうでもよくなってしまいます。これこそコリンズ方式の真髄といった感じがします。

Hammarlund HQ-180A




 これはラジオ少年時代に雑誌の広告か何かで見た記憶があり、お金さえあれば日本でも手に入ったようですが、やはり高嶺の華でした。米国の老舗の一つハマーランド社では、軍用その他業務用のSuper Proシリーズが有名ですが、これは民生用のHQシリーズです。しかし内容はきちんとしたもので、18球のトリプルスーパーで最終IFは60kHzと低く、各バンド幅の周波数比は2くらいになっていますから、感度、選択度に優れ、バンド内での性能差もあまり感じられません。スロットフィルタや、当時最新技術のパスバンドチューニング(IFシフト)も搭載されています。しっかりとした余裕のある作りも魅力です。

 電気式の時計が付いており、これはコンセントをつなげば常に動いています。そう言えばこの受信機には電源スイッチと明示されたものが存在しません。もちろんその操作が出来るところはあるのですが、第1局発管などは安定化のためコンセントをつなげば常にヒータが加熱されています。時計のこととあわせて考えると、いかにも「永遠に連続運転して構いません」と言われているようで、実に頼もしく感じます。(もっとも長期間使用しない時は、コンセントを抜くことが推奨されていたようですが・・・)

Hallicrafters SX-100



SX-100 の上は TRIO R-1000

 この分野である意味最も有名とも言えるハリクラフターズ社には、初心者用のラジオからプロ用の高級・高性能機まで、実に多くの様々な機種がありますが、デザインの優れているものが多いような気がします。多種、多量に売っていくには、デザインにも力を入れることが大切なのでしょう。特徴的なデザイン、そして私の好きなデザインも何種類もあるのですが、私の印象に特に強く残っているのは、他社もよく真似をしたS-38の初期型のデザインと、この半円を横に2つ並べたパターンです。このパターンで有名なのはSX-88ですが、これは希少で大変高価なので、このSX-100を手に入れました。

 内容は単なる高一中二と言ってしまえばそれまでですが、14球のダブルスーパーで第2IFは50kHzと低くとってあり、また必要な機能は揃っておりノッチフィルタも搭載されています。惜しむらくは第1IFの1650kHzの前後が受信できないことくらいでしょうか。外観デザインは細かな部分も良く考えられていて、眺めていて操作が楽しくなるデザインというものがあると感じます。人間工学的な操作性とあわせて、気持ちよく作業できるデザインを目指したいものだと思います。(もちろんデザインは人による好みの差や、周囲の環境との調和もあって、一概には言うのは難しいのですが)

 なお上の写真でSX-100の上に載っているものや写真の右端で見切れているのは、国産各社のソリッドステートのアマチュア用通信型受信機やHFトランシーバーたちです。

 TRIO/KenwoodのR-1000はPLLシンセサイザの普及し始めた頃のもので、まだ1MHz毎の切換え式で、異なるMHz帯への連続チューニングができませんが、安定した性能で、内蔵スピーカーでもそこそこの音質が得られ、使いやすい機種だと思います。
 ICOMのIC-R71は、これも結構昔の機種となってしまいましたが、とにかく感度は抜群です。
 JRC(日本無線)のNRD-525もアマチュア向けの機種ですが、バリキャップによるRF自動同調が搭載され、耐久性などを除いてはプロ用機種にも匹敵する性能を発揮します。

 これらの受信部は現在主流のシンセサイザを局発としたいわゆるアップコンバージョン方式であり、安定度に優れますし、選局機構を如何様にも構成できてあらゆる点で扱いやすいので、現在ではほとんどがこの方式になってしまいました。



上はICOM IC-R71、下は JRC NRD-525


 この方式を可能としたのは、ひとえにシンセサイザの恩恵であり、まさにこれが革命的だったのですが(他にもフィルタ技術の進歩とか、制御のデジタル化とか、いくつか重要な技術革新もあるとは思いますが)、受信機全体の構成としてはむしろ単純なスーパーヘテロダインに戻ったように思えます。やはりシンプル・イズ・ベストなのかもしれません。

  こういった受信機たち、今後はどういう方向へ発展していくのでしょうか。AFからIFへとDSPが進化してきましたが、デジタル技術の更なる高速化、大容量化が進んで高い周波数まで扱えるようになれば、フルDSPでアナログ回路はほとんどない受信機、なんていうのも可能になるかもしれませんね。(なぜかちょっと寂しく感じるのは、歳をとったせいでしょうか・・・)

2007.3.4
修正 2007.5.27
修正 2007.10.18
追記 2008.1.21

Hallicrafters S-27




 およそ28MHzから143MHzくらいまでを3バンドでカバーし、 FM、AM、CWが受信可能な本格的なVHF受信機です。1940年頃の製品ですので、この手のものとしては初期のものと思われます(当時はこの周波数帯 をVHFではなくUHFと称していたようです)。まだ発展途上にあったようで、42年には後継機S-36となり、44年には改良型のS-36Aとなってい ますが、この間に回路上の根本的な変更はありません。

 この個体も50年代にW(米国)のOMさんがあちこちに改良を加えており、それを入手したJAのOMさんがきちんとリキャップされたものを譲っていただ きましたので、今でも快調に動作しています。70年近く前の古色蒼然たる機種で現代のモダンなFM放送を聞くというのも、ちょっと感動的です。外観デザイ ンはS-20R Sky Champion あたりから、あの名機SX-28 Super Skyrider、そしてS-37 に至る戦前・戦中のハリクラフターズ機の代表的なデザインを確立しています。

 この機種は出力段が6V6のプッシュプルなのですが、この個体は出力トランスの片側が断線しているため、WのOMさんがシングルに改造したようです。本 来のプッシュプルに直そうかと思案しているところです。

2008.8.14

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