憧れのトランジスタ・ラジオたち



 私が子供の頃、ラジオやアマチュア無線に興味を持ったのは60年代のなかば、それから 70年代にかけてラジオや無線機もどきを自作したりしていました。そのころテレビやアマ無線機はまだまだ管式でしたが、ラジオは既にトランジスタが全盛でした。トランジスタを使ったものも自作しようとしたのですが、当時のつたない知識では(今でもあまり変わりませんが)、ちょっと回路を間違えるとすぐに壊してしまって、結局多少の無理があってうまく動作しなくても壊れることの少ない管式の自作にとどまっていました。それが70年代も後半になって、いよいよさすがに管式も時代遅れになってくると自作はあきらめ、もっぱら人の作ったものを使うだけになっていきました。

 子供の頃に憧れだったのは、国産のいわゆるBCLラジオでした。そのころはキットで組み立てた管式のTRIO 9R-59DSを大切に使っていたのですが、気楽に使うにはトランジスタ・ラジオが便利です。といってちゃんとしたBCLラジオを容易に手に入れられるような身分ではありませんから、電気店でカタログを集めてはどれが良いか眺めているばかりでした。今になってガラクタ同然となった当時憧れのラジオたちがあちこちに放出されていることを知り、少し集めて手入れをしたりしています。このホームページは真空管を主体としていますので、いわば番外編ですが、こんなトランジスタ・ラジオたちを紹介してみたいと思います。



SONY ICF-1100D(The 11D)'71

 初めてちゃんとしたトランジスタ・ラジオを手に入れたのが71年、ちょうどそのころ発売されたSONYのICF-1100でした。The 11(ザ・イレブン)の愛称があり、MW、SW、FMの3バンド・トランジスタラジオ、イレブン・シリーズの最終型だったと思います。同じシリーズのスポーツ・イレブンや、松下のワールドボーイなどと比較して、迷った末に選んだ記憶があります。SWは1バンドで12MHzまでですが、MW、SW、FMのいづれも、感度、音量、音質とも十分で、安定して使えるラジオでした。引越しなど繰り返しているうちにいつの間にか無くしてしまったのですが、最近オークションでFMワイヤレスマイク付きのICF-1100D(左の写真)を手に入れました。現在主流の小型ラジオに比べると、やはり適度な大きさのラジオは音が良く使いやすくて、いいものです。


SONY ICF-5500(Skysensor 5500)'72

 ICF-1100を手に入れてしばらく(確か1年くらい)して、あの初代スカイセンサー5500(ICF-5500)が発売されたのを覚えています。ちょっと悔しかったのですが、すぐに買い換えられるような身分ではありませんでした(5500のスライドボリュームは使いにくいからいいや、と自分を納得させた記憶があります)。5500が発売されたのが72年、これがいわゆるBCLブームの火付け役になったように思います。今見てみると、1100と比べてタイマーとMWの感度切換えは追加されていますが、基本機能はほとんど変わりません。短波は1バンドで12MHzまで、バンドスプレッドもBFOもありませんが、デザインをそれまでのラジオとは違うイメージにして、宣伝も含めて実用的なラジオとは少し違う使い方、つまりBCLやSWLのような使い方をアピールすることにより、新たなユーザー層の開拓・拡大を図ったということではないでしょうか。


SONY ICF-5800(Skysensor 5800)'73

5500発売から1年たたない内に(73年)、上位機種としてあのベストセラー5800が登場します。短波は3バンドで28MHzまでカバー、同調ダイアルの緩速切換え、BFOも付いて、いわばBCLラジオの基本的・標準的なスタイルを確立したと言えるでしょう。私もこれは欲しいなと思いました(でも買えませんでした)。筐体は5500より大きくなり、作りもしっかりしています。短波も中波と同様にIF455kHzのシングル・スーパーのようですが、感度が良い割には思ったほどイメージ混信は大きくありません。もちろんダブル・スーパーなどの通信型受信機には及びませんが、家電製品である「ラジオ」としては十二分の性能です。普通のラジオの延長上で、実質的に大きな違いはないのに、多少の機能・性能の向上とトータルデザインの妙でBCLラジオというジャンルを作り上げた名機と言えると思います。


SONY ICF-5600(Skysensor 5600)'74

 74年には、5500がマイナーチェンジして5600になります。丸窓のデザインが面白く、ボリュームもスライドでなく私には使いやすいダイアルになったので、今度こそ買い換えようかと思ったのですが、結局またも果たせずでした。今回中古品をあらためて使ってみますと、性能も良く使いやすい機種だと思います。機能的には5500に、FM同調指示のヌルインジケータ追加や照明のメモリー化など細かい改良が加えられています。同調ダイアルにもちょっとした工夫があって、大きく動かすときは側面のノブに付いたハンドルを引き出して操作し、細かく動かすときは正面に出ている大きなノブの一部をスライドさせるようになっていて、緩速の切換え機構なしでそれに近い操作ができるようになっています。ただし5500、5800に比べるとスイッチ部品などコストダウンを図ったと思われるところが見られるのが、私には少し気になります。


SONY ICF-5900(Skysensor 5900)'75

 そして75年には、スカイセンサーの代表機と言われる5900が発売されます。マーカーとサブダイアルが付いて短波帯では10kHzが直読でき(頭の中で計算は必要ですが)、ダブル・スーパーになって性能も向上しているようですが、欠点としては第1IFをFMのIFと共通の10.7MHz付近にしているため、この前後の周波数帯を受信できません。サブダイアルがこの機種の特徴であると同時にかなり有用なのですが、局発周波数を動かしているだけと思われますので、アンテナ同調回路のQは適度な値にするなど微妙にバランスをとった設計になっていると思われます。(そのために、イメージ混信が出にくいよう第一IFの高いダブル・スーパーになっているのかも?)

 今回あらためて5900に触れてみて個人的に残念に思うのは、外装の質感が5500や5800に比べて明らかに劣ることです。プラスチックの質あるいは表面仕上げが安っぽいものになっていて、その他細部のデザインも含めかなりコストダウンが図られていると思います(業務ではなく趣味で使うものであるからこそ、見た目や質感も大切だと個人的には思うのですが)。しかしスピーカーが良いのか、見かけによらず筐体がしっかりしているのか、音質は大変落ちついたもので好感が持てます。マーカーとサブダイアルも実用になりますので、BCLなど行うのに楽しい機種であることは確かです。


SONY FX-300(JACKAL 300)'76

 ところでBCLラジオではありませんが、もう一つの憧れはSONYのジャッカルでした。AM/FMラジオ、テレビ(VHF/UHF)、そしてカセットテレコが一体になったいわゆるラテカセで、他のメーカーからも同様のものがいくつか出ましたが、ジャッカルの独特のデザインと精密感は抜群でした。ポータブルのトランジスタ・テレビも憧れでしたが、ラテカセならテレビとラジカセが1台で済むという、当時としては画期的なイメージがありました。今ならワンセグ、液晶画面やメモリーオーディオなどの組み合わせでずっと小型・軽量にできるかもしれませんが、当時はブラウン管、テープメカとアナログ回路で作られた精密機械とでも言えそうなものでした。

 もっともあと数年するとアナログ・テレビ放送が終わってしまうので、テレビはモニタの役目しかできなくなってしまうのが残念です。デジタル・ラジオも議論されているようですが、ラジオはアナログ放送も残って欲しいものだと思います。デジタル放送の最大の欠点は、受信状態が悪くなるとすぐに復調不能となってしまう(聞こえなくなってしまう)こと、また機械の肝心な部分が少しでも劣化または損害を受けると全く機能しなくなることです。災害など緊急時にも大きな役割のあるラジオは、完全デジタル化することはないとは思うのですが・・・

 私の記憶では、おそらく75〜76年頃にBCLブームの広がるスピードがピークに達したように思われます。このころSONYでは、スカイセンサーシリーズとしては廉価版で横型の5450、デザインの変わった6000、そして王道(?)の5600、5800、5900、カセット付き高級機の5950、折りたたんで小型になる7800、さらに高級ブランドのワールドゾーンシリーズとしてはPLLでとてつもなく高いCRF-320や、長波も含めたCRF-200(このあたりがZenith社のTrans-Oceanic Royalシリーズなどに対抗する高級ラジオの典型?)などが併売されていて、まさにアナログ・トランジスタラジオが全盛の時代だったのではないでしょうか。



National RF-1150(COUGAR 115)'75

 もちろんSONY以外にも、松下のクーガ、三菱のジーガム、日立のパディスコ、東芝のサウンドナナハンなど、たくさんのシリーズ、機種がありました。これらの中で個人的に特に印象に残っている機種は、松下のクーガ7やクーガ115などです。クーガ7(RF-877)はスカイセンサー5500の対抗機と思われ、以降クーガシリーズの特徴となったジャイロアンテナは機能上魅力的で印象には強く残っているのですが、あのミリタリー調の外観がちょっとおもちゃっぽく見えて、個人的にはあまり好きにはなれませんでした。

 そして左の写真のクーガ115(RF-1150)は、機能的にはスカイセンサー5800の対抗機と思われますが、発売時期や価格は5900に近いものでした。今クーガ115を見てみると大きさも5900とほぼ同等で、正面の金属パネルも相まってかなり堂々とした外観です。機能的にはマーカーや周波数直読機構はないので前述のように5800並ですが(ファインチューニングつまみは付いていますが、そこで周波数は読めない)、性能は良く、特に大きく立派なスピーカーの音量・音質には余裕があります。またジャイロアンテナはやはり大変便利です。


National RF-2200(COUGAR 2200)'76

 現在でも非常に人気のあるクーガ2200(RF-2200)は、商売上はスカイセンサー5900の対抗機であったと同時に、より上級機の位置づけでした。5900より少し高い価格帯にありましたが、松下がこの分野での王者を狙った野心作と言えると思います。短波帯を4MHzごとの等幅の6バンドに分けて周波数を直線表示とし、およそ10kHz単位で直読可能としているところは非常に使いやすく、それまでのBCLラジオとは一線を画する機能と言えます。これは一見コリンズ方式にも似ていますが、全くそうではなく、普通のダブル・スーパーのようです。ただコリンズ方式の考え方の一部を参考にしていると思われる部分もあり、1つは各同調回路(アンテナ同調と局発)にそれぞれ周波数直線性を持たせることによりトラッキングを容易にすると共に周波数を読み取りやすくすること、もう1つは上側ヘテロダインと下側ヘテロダインを組み合せることにより局発のバンド数を削減することです(本来のコリンズ方式では可変局発を1バンドに集約するのですが)。これは大変巧みな設計だとは思いますが、限られたコストの中で等幅で直線性のあるマルチバンドの同調回路を十分な選択度を持って作るのはかなり困難なはずで(コリンズのようにものすごくコストをかければ別ですが)、そのためでしょうかイメージ混信は結構あるように思います。


National RF-2800(PROCEED 2800)'77

 70年代後半になるとPLLシンセサイザー機も多少増えてきました が、まだ まだ超高級機で非常に高価でした。そこで表示だけデジタルのアナログ機が出てきました。左 の写真のプロ シード2800(RF-2800)もこういった機種の1つで、クーガ2200の上位機種として登場しました。これはクーガシリーズの高級機種(クーガ 118など)の発展型のようで、普通のダブル・スーパーですが、通信型受 信機でよくあるように 短波帯の各バンドの上端と下端の周波数比を2程度(バリコンの容量比で4程度)と小さくしてあります。これによりバンド内の感度差や目 盛り精度、トラッキング精度の上でも無理なく高性能を実現しているようです。チューニング・ダイアルの緩速切換えも、バリコ ン容量比に余裕があるのでバンド内全域で緩動(微動)が良く機能します。BFOもピッチコントロール付きで、受信機として必要な機能はほぼ揃っていると思 います。周波数目盛りは直線的ではありませんが、周波数の直読はデジタル・カウンタ に任せるという合理的な設計です。1kHz単位で読むことができますが、1kHz台の安定度まで求めるのはさすがに無理なようです(若干ドリフトしていく のが見えることがあります)。筐体はかなり大き く立派で、音量・音質も一応十分にありますが、多少余裕に乏しい気がします。筐体全体が大きさの割に軽量なためか、スピーカーが多少貧弱なためで しょう。

 スカイセンサー5900にしてもクーガ2200にしても、BCLブームの牽引役としてコストを抑えながらできる限りの機能を盛り込んだ機種として大変面白いのですが、いま考えると何かちょっとアンバランスな感じ(あるいは無理をしているような感じ)もします。周波数直読などここまでやるなら安定度、選択度など受信機としての基本性能ももう少し高いと良いのに、と感じてしまいます(そうすると、もはやラジオではなく通信型受信機になってしまうのですが・・・)。ただ当時のラジオ少年としては、通信型受信機ほどではなく、もしかしたら手が届きそうな、懐かしく憧れのラジオたちであったことは確かです。
2007.9.15
修正 2007.9.16
修正 2007.10.3

 さて次に、その後に私が使ってきたラジオ、現在も常用しているラジオなどについても、少し紹介してみたいと思います。


前列左から ICF-7500B ('77),  ICF-7600A ('82)

 71年以来ICF-1100を愛用してきましたが、旅行などで持ち歩くのに便利な小さなラジオも欲しくなり、BCLラジオではありませんが77年に中波・FMの2バンドの小型アナログラジオICF-7500Bを購入しました。ちょうど当時発売された短波放送も聞けるICF-7600とどちらにしようか迷ったのですが、7600より若干小さく、さらにスピーカー部を取り外してイヤフォン専用にすれば超小型で持ち歩きに便利なこと、出歩く際は中波とFMがあれば十分と考えたことで7500Bを選びました。小型の割には感度も音質も良いと当時思いましたが、その印象は現在もあまり変わらず、今でも居間の片隅に置いてあり、手軽に使いたい時など時々出番があります。

 その77年に発売されたICF-7600は、中波、FMに加え、短波は放送波帯5バンドをカバーするブックサイズの小型アナログラジオで、デジタルも含めたその後のSONYのこの手のラジオの標準的なスタイル(大きさ、形状など)を作りました。と言うか結果的にこれが標準的なスタイルとして定着したわけで、「7600」という型番も現在まで続いています。
 写真は短波帯が7バンドに増えた後継機のICF-7600A(82年発売)で、感度、音質など小型ラジオとしては十分な基本性能で、その点では最新の同クラスのPLL機と遜色無いと思います(機能の多少や経年変化は別として)。88年には短波帯が更に10バンドに増えた後継機ICF-7601となります。


  上段 ICF-2001 ('80),  下段 ICF-2001D ('85)

 80年にPLLシンセサイザー機のICF-2001が登場した時は、このクラスのラジオでデジタル選局が実現したということで大変話題になりました。海外でも革命的ラジオとしてかなりの衝撃をもって受け入れられたようです。ただし性能や使い勝手で必ずしも最高レベルの評価が得られたわけではないようです。AMはアップコンバージョンで2nd IFが10.7MHzのダブルスーパーですが、マニュアルでの選局はダイレクト選局か短波は1kHz単位(または10kHz単位)のアップ・ダウンが基本となります。実際に操作してみると、大きな筐体の正面のボタンを押して選局しなければならないので、筐体を立てて置いた状態ではいささか操作がしにくいのが難点です。(寝かせて置いて操作すれば問題ないのですが)

 85年には機能、性能を大幅に向上させたICF-2001D(米国バージョンはICF-2010)が登場します。これは今でも最高の評価を与える人が多く、米国などでは2003年頃まで販売が続けられ、超ロングセラーとなりました。ICF-2001から回路は大幅に見直され、AMの2nd IFは455kHz、エアバンドの受信も可能となっています。性能が良いのはもちろんですが、同期検波や帯域幅(選択度)のWide/Narrow切換え、その他必要な機能は揃っています。チューニングもしやすく(FINEモードでは0.1kHzステップでダイアルでのチューニングが可能)立てて置いた状態でも操作性が良いので、私は今でもベッドの脇に置いて愛用しています。


前列左から ICF-7600DS ('87),  ICF-SW7600 ('90)

 時期は前後しますが、83年には7600シリーズにもデジタル機のICF-7600Dが登場し、アナログ機と併売されることになります。米国ではICF-2002と呼ばれ、7600シリーズの特徴であるブックサイズですから2001よりかなり小型ですが、2001の販売終了と共にその後継機としての意味合いも持たされて登場したようです。性能が良く、また短波の周波数ステップは5kHzになりましたが、ファインチューニングが付いているので微妙なチューニングも可能で、2001より全体的に使いやすいと思います(筐体が小さく全体を手に取って操作すれば良いので、正面のボタンを操作するのも容易)。価格も手頃で、評価も2001に比べて格段に高まりました。

 7600Dの改良・後継機が写真のICF-7600DS(87年発売、米国バージョンはICF-2003)で、7600Dと機能的に大きな違いはありません(回路図を見比べてもあまり違いません)。音質も小型の割には良く、全体にまとまりが良い機種で、私の場合は2001Dと共によく使っています。

 7600DSの後継機として90年に写真のICF-SW7600が登場します。デザインが一新され、素子や回路のリファインも図ったモデルチェンジと思われます。機能上の追加点はFMステレオが聴けるようになったことぐらいですが、使いやすさは変わりません。


前列左から ICF-SW55 ('91),  ICF-SW7600GR ('01)

 91年にはSONYのフラッグシップ機ICF-SW77と、その下位機種として写真のICF-SW55が登場します。いずれも大きな液晶画面を搭載し、多彩な時計機能や局名表示など付加機能が充実しています。SW55は小型のボディに収めるために背面内部に配置されているスピーカーの音声をダクトで正面へ送るという独特な形態をとっていますが、これが音量・音質豊かでなかなか優れものです。受信機としての基本性能も良いのですが、大きさ・重さが7600シリーズを多少上回ります。わずかな差なのですが、このあたりがボディ全体を手に取って楽に操作するには限界の大きさ・重さと思われます。

 そしてこの時代SW7600は付加機能は限られた標準機という位置付けだったと思われますが、94年にはICF-SW7600Gにグレードアップします。新たに同期検波を搭載し、周波数ステップは短波の5kHz、中波の9Hz(または10Hz)に加え、それぞれ1kHz単位の増減も容易にできるようになり、さらに使いやすくなります。

 SONYワールドバンドレシーバーの現行機種(2007年現在)の中で、標準タイプが2001年発売のICF-SW7600GRです。SW7600Gからの機能上の改良点は周波数メモリーが増えたことくらいですが、いわばこれまでの集大成で、最もバランスのとれた良い機種の1つだと思います。

 ただしSW7600GRで個人的に1つ気になるのは、AMの帯域幅が固定で結構狭くとってあり、それだけ選択度は良いのですが、音質が良いとは言えないことです(FMの音質は良好です)。手持ちの機種を比較してみると、7600DS>SW7600>SW7600GRの順にAM音声帯域が狭く感じられ、SW7600GRは2001Dで帯域幅をNarrowに設定した場合と同等に聞こえます。DXなどには良いと思いますが、私はローカルAM局を良い音で聞きたい場合も多いので、2001Dのように帯域幅の切換えが欲しくなります。(この問題は音質の高/低切換えでは解決されません)



前列左から RF-B11,   ICF-SW11,  DE1103

 松下で短波放送がまともに(NSBだけでなく)受信できる現行機は、写真のRF-B11(95年発売)だけになってしまいました。それもアナログの入門機クラスで、それだけ短波ラジオの需要が少ないということなのでしょう。しかし見方を変えれば、短波ラジオとして実用上はこれで十分とも言えます。長波、中波、短波9バンド、そしてFMをカバーし、音質の高/低切換え、FMのステレオ/モノラル切換えもあります。実際に十分実用になるので気楽に持ち出すのに時々使いますが、中国製でかなりコストダウンがなされているのも事実です。(初期品ではTaiwan製という解説をよく見かけますが、現行品には"Made in China"と書かれています)

 そしてRF-B11へのSONYの対抗機が写真のICF-SW11(99年発売)です。これも"Made in China"で、受信バンドも価格もほぼ同じ、ただし音質とFMステレオ/モノラルの切換えはありません(イヤフォンでFMステレオは聴けます)。外観は似ていますが、内部はプリント基板やバリコンの駆動機構などが全く異なります(SW11はベルト駆動、B11は糸掛け)。しかし回路上の主要部品である2つのICは両者同じで、従って回路も良く似ています。性能も似たり寄ったりですが、SW11は横幅がB11より1cmくらい短い分、スピーカーが小さく音質は劣ります。もう一つSW11の気になるところは、カバンなどに入れておくと電源スイッチが何かに触れてすぐ動いてしまうことです。というわけで、私の場合はSW11の出番はあまりありません。

 需要の減少もあり大手メーカーの短波ラジオの機種は減る一方ですが、中国メーカーは元気なようで、新たな機種が続々と出ています。試しに手に入れたのが性能などで定評のあるDEGEN社のDE1103です。長波〜中波〜短波を連続カバーするアップコンバージョンのダブルスーパーですが(FMステレオも受信可)、放送波帯の目盛りを液晶表示し、ダイアルでアナログ的な選局が出来ます。テンキーによるダイレクト選局も可能なので、離れた周波数への移動も容易です。もっとも目盛りは液晶で表示が粗いのでアナログ的な感覚には乏しく、目盛りのある意味はあまり感じられません。感度はかなり良好ですが、AMの帯域切換えをWideにしても音質は今ひとつに感じます。機能は多く、後発であるがゆえ良く考えられているところもありますが、各ボタンへの割り振り方にわかりにくいところもあります。しかしこれが大手メーカーの同クラスの製品に比べて1/2〜1/3の価格で手に入るのですから、脅威であることは確かです。
2007.12.9
修正 2007.12.16
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