初歩のデジタル・レコーディング

 前々から昔のレコードやテープをデジタル化して保存しておくとともに、CDに焼いて手軽に聞けるようにしておきたいと思っていました。最近はレコードをデジタル化したいという要望がやはり多いようで、USB端子付きのレコードプレーヤーが各社から発売されるようになりました。USB端子付きのカセットプレーヤーも発売されているようです。こういう製品は大変便利そうですが、付属しているソフトや書き出せるフォーマットに制約があるものもあるようですので、自分のやりたいこと(どんなフォーマットでデータを保存するか、どんなメディアにどのようにデータを加工して格納したいのかなど)を考えた上で、それができるかどうかをよく調べる必要がありそうです。

 そこで汎用性や今後の発展性も考えて、まずは正攻法(?)で普通のレコードプレーヤーとA/D変換器(いわゆるオーディオ・インターフェイスとか、オーディオ・キャプチャーなどと言われているもの)とパソコンを組み合わせて、データ取り込みとCDへの焼き込みにトライしてみることにしました。なお全段差動アンプ以来お世話になっている「ぺるけさんのホームページ」の「Digital Home Recording」を全面的に参考にさせていただきながら、まずはなるべく楽に作業ができるように考えてみました。(結構たくさんのレコードを処理したいので・・・)



オーデイオ・インターフェイス EDIROL UA-4FX


使用した機材は・・・

 オーディオ・インターフェイスは EDIROL (by ROLAND) の UA-4FX を使いました。最大で24bit、96kHzでの変換が可能で、アナログ音声の入出力、デジタル音声(オプティカル)の入出力、マイク入力、ヘッドフォン出力もあり、いろいろな使い方ができそうです。パソコンとはUSBで接続し、パソコンへの取り込み、パソコンからの送り出しとも可能です(A/D変換とD/A変換ができる)。入力、出力にそれぞれボリュームがあるので便利です。比較的安価な入門機に近い位置付けの製品だと思いますが、最終的に焼いたCDをレコードと聞き比べてみてもまったく遜色を感じませんので、性能はかなり良いのではないか思います。なおこの UA-4FX には様々なエフェクタが内蔵されていて、これが売りのひとつになっているようですが、今のところこれらの機能はまったく使っていません。

 レコードプレーヤーは70年代半ばから長年愛用してきたものがあるのですが、何せ古く動作に少々不安があるので新調しました。と言っても、MMカートリッジとフォノイコライザアンプが付いた、ミニコンポなどにつなぐための安価なプレーヤーです。



Sount it! で取り込んだレコード1枚分のデータ。


データの取り込み

 パソコンは5年近く前の Macintosh iBook ですので、今や(当時も)決してハイスペックではありません。UA-4FX に付属している録音ソフト Sound it! をインストールして、まずはレコードからの録音(パソコンへの取り込み)です。
(ちなみに2010年現在、UA-4FXは同じROLANDですがEDIROLブランドからCakewalkブランドに変わり、それに伴って同梱ソフトもSound it!からWindows専用の別のソフトに変わったようです。Sound it!自体は今でも別途購入可能ですが・・・)

 録音は、最終的にはCDに焼くことを目的にしていますので16bitで44.1kHzのデータが得られれば良いのですが、いろいろ試してみた結果、取り込みは24bit、44.1kHzで行うことにしました。

 ダイナミックレンジを十分に確保するには録音レベルをできるだけ高くしなければなりませんが、デジタル録音ではレベルが100%を超えた途端に大きく歪んでしまいます。
 昔はレコードを手に入れると、私はまずカセットテープにアナログ録音して、それを繰り返し聞いていました。録音する際にはレベルメータを見ながらなるべくレベルが高くなるようボリュームを設定するのですが、たまにオーバーレベル気味になってもすぐに破綻するようなことはありませんでした。しかしデジタルでは100%を超えられませんので、最大がなるべく100%近くになるようにしようとすると、録音後のデータの波形を詳細に確認したり、レベル調整を変えて何度も録音をやり直したりと、かなり手間がかかったり気を使う作業となります(慣れの問題かもしれませんが・・・)。
 16bitでは理論上90dB程度のダイナミックレンジを確保することが可能ですが、これが24bitでは140dB程度まで大きく拡大されます。そこで例えば24bitで最大レベルが50〜60%くらいで録音しても、録音後のデータ加工でゲインを4dB(約1.6倍)〜6dB(約2.0倍)くらい上げてやれば100%近くに調整でき、その後16bitに変換しても十分な分解能を保ったまま変換されることになります。データのゲイン加工は簡単ですし、やり直しもすぐにできます。



1曲分を選択して、ファイルへ書き出し。


データの加工は最小限です

 録音を行う際は、他のソフトはすべて終了させ、常駐型のウィルスソフトも停止させ、LANケーブルは抜いておきます。録音からデータ加工、CDへの焼き込みまで、パソコン本体のハードディスクで行っていますが、特に問題は起きていません。ハードディスクの空き容量は30GBくらいありますが、CDへの焼き込みが終わったら関連ファイルは外付けハードディスクへ移動して、常に本体の空き容量を確保しておくようにしています。

 録音が終わったら、上で説明したゲイン加工と16bitへの変換を行い、次に1曲ごとにファイルを作っておきます。その前に曲の切れ目を探してマーカーを入れておくと、1曲ごとに切り出す際に便利です。実はマーカーを入れておけば、曲の切れ目がCDにも記録されるのではないかと期待したのですが、どうも Sound it! ではそれはできないようです。マーカーの位置を参照して1曲の始めと終わりを指定して選択し、その範囲を別ファイルに書き出していきます。曲と曲の間を空けることは考えずに、連続して切り出していきます。これはソースによっては曲間に無音区間が無く、間奏などで連続している場合が結構あるからです。

 本来は1曲ごとに前後のフェードイン・フェードアウトやクロスゼロ処理を行なった方が良いのでしょうが、とりあえず行なっていません。理由は曲間が連続している場合があるからです。
 またレコードのキズ、ホコリ、その他の要因によるノイズの除去も行なっていません。理由は「そのほうがレコードらしいから、当時のレコードの雰囲気を味わいたいから」ですが、要は手を抜きたいから、作業は最小限にしたいからです。



曲を選んで、CDへ書き込み。


CDへの書き込み

 1曲ずつのデータ切り取りが終わったら、CDへの書き込みです。UA-4FX に付属している Mac 用の Sound it! ではCDへの書き込みもできます。(現在のUA-4FXにSound it!は付属していません)

 書き込みは、レコードの順番で各曲のデータを並べて、書き込みを指示するだけです。各曲のデータはほぼ連続するように切り出していますので、曲間に挿入する無音時間はすべて0秒としています。なおCDに書き込んでいる間は、録音時と同様に他のソフトは停止したりLANとは切り離して、書き込みが邪魔されないようにします。

 これでCDが完成ですが、心配したのは曲の前後の処理を何も行なっていないので、曲の切れ目でノイズが入らないかということでした。曲の終わりが次の曲の始めと同じになるように時間指定して切り出すのが簡単なのでそうしたのですが、1ms(ミリ秒)単位で時間指定したので、サンプリングが44.1kHzであることから単純計算すると、曲の終わりと次の曲の始めで40〜50サンプル程度がダブっている(または離れている)可能性があります。実際にできたCDをヘッドフォンでよく聞いてみると、曲の切れ目でわずかにプチッというノイズが聞こえますが、レコードではあちこちにあるごく小さなゴミかキズを拾ったようなノイズと同程度のレベルで、普通に聞いていて違和感はありません。手抜きといえば手抜きですが、私にとって実用上はこれで十分です。もっと手を抜こうとすると、1曲ずつデータを切り出さずにレコード1枚まるまる(またはA面、B面の2分割で)焼けばかなり手間は省けますが、せっかくCDに焼くのですから、最低限、各曲の頭出しはできるようにしておきたいと考えました。


 前にも述べましたように、焼いたCDと元のレコードとを聞き比べてみても、全くと言っていいほど違いは感じられません。プレーヤーやアンプなどがもっと良いものであれば差が出てくるのかもしれませんが、私のシステムと私の耳では差が無いということです。少なくとも、昔レコードをカセットデッキで録音して聴いていたときに比べると、ずっと良い音で、ずっと便利になりました。
2009.7.21

 書き忘れていたことが一つあるのですが、レコードから録音する際にはノートパソコンにはAC電源をつながず、電池で運用しています。ACアダプタをつなぐと、非常にわずかですが電源ハムノイズがのるためです(ヘッドフォンで最大音量にしてやっとわかる程度ですが)。おそらくパソコンにのったノイズが、USBを経由してオーディオ・インターフェイスに影響するのだと思います。ノートパソコンだから電池で運用できますが、デスクトップの場合どうすべきなのかは、試していないので何とも言えません(ノートより電源回路やノイズ対策がきちんとできている可能性はありますが)。

 それから、何枚かレコードを録音しているうちに、オーディオ・インターフェイスの入力ボリュームをあまり大きくすると音が歪む傾向があることがわかってきました。これは私のレコードプレーヤー(イコライザアンプ)とオーディオ・インターフェイスの組合せの問題だと思いますが、ピークレベルを100%近くになるように入力ボリュームの目盛を7〜8以上(最大は10)にすると、耳で聞く分にはわずかな違いですが、取り込んだ後に波形をソフトで見ると、ピークの波形が多少なまっているように見えるのです。これはイコライザアンプのゲインが足りないのか、あるいはインターフェイスのゲインに問題があるのかもしれませんが、どうもイコライザの出力とインターフェイスの入力でインピーダンスの整合が十分ではないように思われます。ボリュームを5〜6程度以下にすれば問題ないのですが、そうするとピークレベルは30〜50%にしかなりませんので、24bitで取り込んで、データ加工でゲインを6dB(2.0倍)〜10dB(3.2倍)くらい上げたうえで16bitに変換しています。この程度のデータ加工であれば実用上まったく問題ないのですが、入力ボリュームを小さくしすぎると、ノイズレベルが問題になるので注意が必要です。

 このようにいろいろ課題は出てきますが、とりあえず10数枚のレコードを処理して、なかなか快適に昔のレコードを楽しんでいます。さらに処理を続けながら課題を解決していこうと思っていますが・・・

追記 2009.9.5


いろいろ試してみると・・・

 こうして昔のレコードを20枚近く聴いているうちに、以前はこれで十分満足しているようなことを書きましたが、やはり気になってきたのは更に少しでも良い音にならないかということです。

 音質が今ひとつと感じる元凶は、レコードプレーヤーに固定されているおまけ(失礼!)のようなカートリッジとイコライザと思われます。そこで70年代半ばから使っていた古いパイオニアのプレーヤーを物置から引っ張り出してきました。少し掃除して電源を入れてみたところ、クォーツPLLは生きていてちゃんと回ります。当時使っていたプリ・メインアンプは故障しているので、一番簡単なMM/MC対応のフォノ・イコライザ(AT-PEQ20)を手に入れました。カートリッジは、当時一番よく使っていたAT32Eは酷使したせいか、保管が悪かったのか、どうも調子が今ひとつ。そこでDL-103を新調したところ、おまけのカートリッジより俄然音質が良くなりました。またオーディオ・インターフェイスのボリュームを上げたときに、以前のイコライザではレベルオーバー前に出ていた歪が無くなりました。

 オーディオ・インターフェイスで24bit/96kHzで取り込んだものをそのままPCで再生するとかなり満足できるレベル。これをCD焼き込み用にソフトで16bit/44.1kHzに変換すると、やはり多少変わりますが一応満足できるレベルです。これなら普段はCDに焼いたものを聞くようにして、24bit/96kHzのファイルも残しておきPCで再生できるようにしておくということが考えられます。しかし、オーディオ・インターフェイスで一旦取り込んだものと、イコライザの出力をそのままアンプにつないだ場合を聞き比べてみると、若干違いを感じます。これはオーディオ・インターフェイスの性能も関係しているかもしれないので、もう少し良いインターフェイスはないかと物色していました。すると・・・


デジタル・レコーダーを使ってみる

 オーディオ・インターフェイスも色々なものが出ていますが、最近は半導体メモリなどに直接録音できるデジタル・レコーダーもかなり進化していると共に、それこそピンからキリまで存在していることに気付きました。一番簡単なものはマイクのついたいわゆるICレコーダーですが、これのいわば高級版でリニアPCMでの録音が可能なものが各社から出ています。呼び方はメーカーによって様々ですが、例えば「リニアPCMレコーダー」などと言われています。これだと内蔵マイクだけではなく、アナログのライン音源からでもPCにつながずにリニアPCMで録音できますし、データの加工が必要ならPCに転送して加工し、それをメモリーカードなどでまたレコーダーに入れておけばPCもCDプレーヤーも使わずに再生できます。

 リニアPCM録音ができるレコーダーで手頃なものは、ROLAND、TASCAM(TEAC)、ヤマハ、オリンパス、サンヨーなど各社から色々なものが出ていて(2010年現在)、どれが良いのかかなり迷いましたが、結局あまり根拠は無くソニーのPCM-M10を選びました。(一応比較検討した内容は、サンプリングのbit数と周波数、ライン入出力があるか、入力レベルの調整は容易そうか、レベルメータ表示が見やすいか、PCとのデータ転送は容易そうか、メモリーカードは何が使えるか、などです)


リニアPCMレコーダー SONY PCM-M10

 PCM-M10を使ってみた印象ですが、これはかなりの優れものだと思います。大きさや見た目は少し前の(少し大きめの)ポータブル・オーディオか、といった感じですが、これでリニアPCMかMP3での録音、再生が簡単にできます。

 入力レベルの調整は、ボリュームつまみが付いていて、また液晶表示のレベルメータの反応が比較的良くピーク値もわかりやすいので(表示が小さいので中高年の視力には少し辛いものがありますが)、レベルオーバー寸前を狙ったきわどい調整も比較的容易です。(レベルオーバーを防ぐリミッター機能もあります)
 PCとのデータ転送はUSBのマス・ストレージ・クラスですので、双方向とも容易で、Macでも問題ありません。

 24bit/96kHzで録ったデータをオーディオ・インターフェイスのUA-4FXを使って録ったものとPCソフトのFFT解析で比較してみると、UA-4FXのものは20kHz以上で徐々にレベルが下がっていきますが、M10のものは40kHz以上まであまり下がらず伸びています。耳で聴いた印象でもM10の方が自然な感じがします。(20kHz以上なんて直接聞こえる筈はありませんが)
 もちろんUA-4FXは比較的安価なものなので(確か2万円くらい)、もっと良いオーディオ・インターフェイスを使えば改善されるのでしょうが、M10も3万円以内では買えますので、非常に良い買い物だったと思います。

 M10のライン出力をアンプにつなげば、当然のことながら従来のリスニング環境で楽しむことができます。ヘッドフォンで聴くにはM10だけでも十分な出力があります。これでメモリーカードを何枚か用意してCD代わりにすれば、CDより良い音で、なおかつ容易に楽しめることになりますが、今のところCD-Rよりメモリーカードはずっと高価ですから、普段どういう使い方をするかはもう少し使ってみて考えることにします。

 しかし、とにかく録音も再生も大変容易にできますので、SACDもDVDオーディオもなかなか普及しない現状では、私のような素人がCD以上の高音質を試してみようというのであれば、こういったデジタル・レコーダーはこれからのトレンドになるのではないでしょうか。もちろん44.1kHzでサンプリングしてCDに焼く目的でも、こういったレコーダーは大変有効だと思います。録音が容易ですし、PCに転送すればデータ加工やCDへの焼き込みもできますし、更には本来のライブ録音とかポータブル・オーディオとか色々な使い方ができますので。

追記 2010.3.13

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