電池管5球高1スーパー・ポータブルラジオ



 以前、ラジオの自作に備えて、ミズホ通信製の5球スーパー用コイルと、米国製の2連バリコンやIFTの中古品、トリオ製PC(パディング・コンデンサ)のデッドストック品などを、秋葉原ラジオセンターの内田ラジオさんにて購入していました。これを使って何か作ろうと考え始めた訳ですが、原科さんの4球ポータブルキットを組み立てて、電灯線電源を用いない電池管ラジオのノイズの少ないクリアな音が気に入っていたので、電池管ポータブルを自作しようと考えました。

 しかしこの5球スーパー用コイルではそれなりのアンテナ線を繋がないとまともに受信できず、これだけではポータブルにはあまり向かないことが想像されます。そこでちょっと変則的ではありますが、このコイルを使った電池管スーパーの前段に、トランジスタラジオ用のバーアンテナとポリバリコンを同調回路とした高周波増幅を一段追加した構成を考えました。つまり4球スーパーの前に独立同調のアンテナ兼高周波アンプを付加したようなものです。同調ダイアルが2つになってしまい、使い方に多少工夫が必要かもしれませんが、全体としては感度の向上も期待できるのではないかと考えた訳です。





ここをクリックすると回路図を拡大表示します。

 回路は原科さんの4球ポータブル2型をほそんどそのまま流用させていただき、これに高周波増幅一段を追加しました。ただし局発回路はカソードタップ型のOSCコイルに合わせて、フィラメントと第1グリッド間で発振させる回路としました。ここで一方のフィラメント端子はOSCコイルのタップと接続し、他方のフィラメント端子には局発信号が漏れにくいよう、チョークコイルを入れてあります。このチョークには、はじめ小型のインダクタを使うことも考えたのですが、直流抵抗が大きくフィラメント電圧の降下が大き過ぎることになりそうなので、巻き線が太いトロイダルコアを用いたインダクタにしました。これですと直流抵抗が0.5オームくらいなので、電圧降下は0.03V未満になります。

 周波数変換段入力側のRFコイルには、ミズホの5球スーパー用アンテナコイルを用います。高周波増幅段からの結合方法についてはチョークコイル負荷のコンデンサ結合なども考えましたが、5球スーパー用アンテナコイルの一次側がハイ・インピーダンス型でしたので、まずはこれをそのまま高周波増幅段の負荷にして、コイル結合に頼ってみることにしました。(このミズホ通信製5球スーパー用コイルは、トリオの5S−Hの復刻版のようです)



 高周波増幅段入力のANTコイルとバリコンは、入手の容易なトランジスタラジオ用の小型のバーアンテナ(長さ約4cm)とポリバリコンです。

 外装はすべてアクリル板で、高さと幅が13cm、奥行きが12cmのほぼ立方体です。上下ほぼ中央のアルミ板に真空管、IFTはじめ主要な部品が取り付けてあります。アルミ板の上面には2連バリコンとRFコイル、下面にはOSCコイル、PC、出力トランスなどが取り付けてあります。前面のアクリル板にポリバリコン、ボリューム、スピーカー2個、電源スイッチが取り付けてあり、箱の下側の空間が電池室になります。

 前面と左右側面のアクリル板はアルミ板と固定してあり、左の写真のように天井・底面・背面の3枚のアクリル板が一体で後ろへ引き抜けるようになっています。調整、修理、電池交換などの際にはこれを引き抜くと内部にアクセスできるようになります。



 部品の配置は、ほぼ真上から撮った左下の写真がわかりやすいと思いますが、写真の左上にポリバリコンがあり、ここから右に向かって高周波増幅の1T4、周波数変換の1R5、IFT、中間周波増幅の1T4、さらに写真の下へ向かってIFT、検波・低周波増幅の1U5、電力増幅の3S4となります。出力トランス(東栄変成器のT-600)はRFコイルの真下あたりのアルミ板の下側にあります。

 正面のツマミは、左からANT同調のポリバリコン、中央がメイン同調の2連バリコン、右がボリュームです。2つ並列に接続したスピーカーの中央に電源スイッチを配しましたが、手持ちのスイッチを流用したため少し大き過ぎて、今ひとつ見た目のバランスが悪くなってしまいました。










 組立て完成後のRFコイルとOSCコイルのトラッキング調整ですが、2連バリコンが米国製で最大容量が約480pFあり、ミズホのコイルが想定している容量(430pF)より多少大きめですが、次の方法で難なく調整することができました。

(1) まずPCを調整して、周波数の低い局が適当なバリコン位置で受信できるようにする。

(2) 次にOSCのトリマを調整して、周波数の高い局を適当なバリコン位置で受信できるようにする。

(3) 周波数の低い局を受信しながら、PCを少しずらしてはバリコンで同調を取り直して感度が高くなるところを探る。PC容量を少しずつ高めたり低めたりして、最も感度が高くなるようにする。

(4) RFのトリマを調整して、周波数の高い局の感度が高くなるようにする。

 なお当地(栃木県宇都宮市)では、周波数の低い方はNHK東京第1放送(594kHz)と同第2放送(693kHz)が、また周波数の高い方では地元の栃木放送(1530kHz)が強く入り、これらはANTのポリバリコンがどの位置にあっても受信可能なので、トラッキング調整は比較的容易にできました。



 ところが問題はここからでした。トラッキング調整を行っている時から気づいてはいたのですが、ANTのポリバリコンを回してRF側と同調を取ると、高周波増幅段が発振してしまうのです。このときANTコイルのバーアンテナ をポリバリコンのすぐそばに配置していたのですが、考えてみれば当然のことで、バーアンテナがRFコイルの信号を拾ってしまう訳です。

 そこでバーアンテナへの配線を長めにして、バーアンテナの位置をあちこち変えてみたところ、RFコイルから20cm近く離さないと発振が止まりません。RFコイルの周辺にシールド板を立てても効果はありますが、バーアンテナが高周波増幅管や周波数変換管のすぐ近く(2〜3cm以内)にあっても発振することがわかりました。ケース全体がなるべくコンパクトになるように配置と寸法を決めたので、ケース内でバーアンテナを置ける場所は限られています。試行錯誤の結果、バーアンテナを置くところとしては少し変なのですが、ケースの一番底の場所に落ち着きました。左の写真でケースの一番底、中央より右寄りに見えるのがバーアンテナです。ここですとRFコイルとはアルミ板を隔てる上に最も遠く、また高周波増幅管や周波数変換管ともある程度距離を置くことができます。(ちなみにバーアンテナの少し上に見えるのが周波数変換管のフィラメントに入れたトロイダルコアのチョークコイルです)

 直熱管としては少し変則的に1R5のフィラメントーグリッド間で局部発振をさせていますが、特に問題は無いようです。トラッキング調整を行っている時にPCを少し大きく動かしてみましたが、かなり広い周波数範囲で安定して発振しているようでした。

 4球スーパーに比べ、高周波増幅段を追加した効果は、やはり絶大なようです。高周波増幅段へのB電源をカットして、RFコイルの1次側に1mくらいのビニール線を繋いでも、1次側がハイ・インピーダンスであることもあって受信は十分に可能です。しかし高周波増幅を入れると、ANTバリコンが同調していなくても高周波増幅が無い場合と同等以上の感度があり、同調させれば感度は格段に上がります。従って選局方法としては、ANTバリコンをおよその位置に置いた上でメインの2連バリコンで同調を取り、さらにANTバリコンを微調整すれば、東京の民放各局を含め、通常受信する局は容易に選局可能です。

 しかし夜間など電波が極端に強い時には高周波増幅段が発振気味になることがあったり(この場合はANTの同調をわざと少し外せば大丈夫です)、電波が極端に弱い局を受信する場合は、ANTバリコンとメインバリコンを少しずつ回すなど選局に多少手間がかかります。本来は3連バリコンを使ってRFコイルはきちんとシールドされているものにするか、あるいはANTとOSCを2連バリコンにしてRFは非同調としてもよいのかもしれません。後者の場合は部品点数が減らせますし、ANTコイルにバーアンテナではなく今回RFコイルに使用した5球スーパー用アンテナコイルを使っても、ハイ・インピーダンス型なのでロッドアンテナ程度でかなりの感度が得られるように思います。(ただしイメージ混信などは増えるでしょうが)

 とは言え、設計・製作・調整の各過程でいろいろ勉強になりましたし、ANT同調を取ると高周波増幅の効果が実感できるなど、なかなか面白いラジオができたと感じています。
2005.8.1

 お盆休みに新たなラジオ製作の構想を練っていたのですが、その参考とするためにこの5球スーパー各部の電圧を測っていたところ、どうも電力増幅管3S4のバイアスが多少深めではなかろうかと思われました。3S4のバイアスは、B電池のマイナス側に入れた抵抗による電圧降下を利用しているのでB電流に左右されます。この抵抗を4球スーパーと同じ820オームとしていたのですが、これですとB電圧が通電時60Vくらいの状態で、バイアスが無信号時にマイナス10Vくらいあり、信号が入っても信号強度によりますがマイナス9V前後のバイアスになります(信号が強くてAVCが効くほどRF段やIF段のB電流が減るため、3S4のバイアスは浅くなります)。しかし3S4のEp-Ip特性を見ると、バイアスはマイナス6Vから8V程度が増幅度が高く、線形性も良いようです。考えてみれば当然で、4球スーパーより1球増やしてB電流も増えていますから、同じバイアス抵抗では3S4のバイアスが深くなってしまいます。

 そこでバイアス抵抗を820オームから470オームに変更したところ、3S4のバイアスは無信号時にマイナス7.5Vくらい、信号が入った状態でマイナス6.5V前後となりました。音量も多少大きくなり、明瞭な音質となりました。B電流は合計で約12mAから15mA程度に増加したため、電池の消耗は多くなりましたが、使用感はこちらのほうが良いと思います。
2005.8.22
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