電池管トリプルスーパー受信機の実験

コリンズタイプへの憧れ

 電池管の高1中2受信機を何とか完成させましたが、次は何を作ろうかと考えると、やはり次のステップとしてはコリンズタイプに挑戦してみたくなります。周波数が高くても低くても、どこでも一定の周波数幅の中で選局可能、つまり周波数分解能が一定のコリンズタイプは、高い周波数でも周波数の読み取り精度が悪くならないことなどで、当時は理想の受信機と考える方も多かったと思います(シンセサイザ機が一般的になってからは、当たり前になってしまいましたが)。と言ってもはじめからちゃんとしたものを作るのは無理ですので、まずはその原理が実験ができるものを作ってみました。


高1中2スーパーの右にあるのがダブルスーパーのクリスタルコンバーター  合わせてコリンズタイプの実験装置


まずはコリンズタイプのお勉強から・・・
 設計の前にまず、どのような周波数変換の構成にするかがコリンズタイプの鍵となりますので、代表的な往年の名機について調べてみました。本家コリンズ社がコリンズタイプを確立したのは51Jシリーズと思われますが、R-388 / 51J-3 の周波数変換の構成は下の表のようになっています。PTOで3〜2MHzを発振し、上側ヘテロダインと下側ヘテロダインを切り換えることにより、最終周波数変換の入力VIFを2.5〜1.5MHzと3.5〜2.5MHzの2種類にして、これにより局発のクリスタルなどを減らしています。また局発で高調波も利用することにより、さらにクリスタルを減らしています。




軍用では上のいわば後継機である R-390Aになると、下に示すようにかなりすっきりした周波数変換構成となります。PTOの発振周波数に近い低い周波数帯では、PTOの回り込みなどを防ぐために1st Mixで一度高い周波数帯にアップコンバージョンし、2nd Mixで全て同一VIF(3〜2MHz)に変換します。これがコリンズタイプの1つの代表例だと思いますが、この機種は軍用のみであったこともあり、コストより信頼性や整備性を重視した設計と思われます。




コリンズの最後の真空管機である 51S-1では、下のようにかなり凝った構成になっています。PTOより下の周波数帯では前機種と同様のアップコンバージョンですが、PTOより少し高い周波数帯では一度同一の周波数帯(14.5〜15.5MHz)に変換しています。これは1st Mixの出力できちんと同調を取るよりバンドパスフィルタで処理した方が合理的だからなのでしょうが、この構成もコリンズタイプのもう一つの代表例と思われます。




国産コリンズタイプの代表例として、JRC(日本無線)の NRD-1 の周波数変換構成を下に示します。JRCでは R-388 のライセンス生産などで技術を磨いた後に、オリジナル機としてこの NRD-1を開発し、これが大ヒットしました。周波数変換の構成は 51S-1と良く似ています。




ところでVIFの幅は何も1MHzでなくても良いわけで、下のアンリツの RG15A(上の各機より後の時代の半導体機ですが)のように2MHz幅にして、バンド数を減らして簡素化している例もあります。




クリスタルコンバーターを作る
 上の機種のほかにも色々な機種の回路図などを眺めているうちに、だんだん作るもののイメージができてきました。まず各段の同調を連動させるのはあきらめました。本家コリンズでは、各段の同調回路をそれぞれ電気的、機械的に周波数直線型にして、これらを精密なメカで連動させることにより同調の容易性、直線表示、トラッキング性能などを実現していますが、これをするのは私には到底無理です。またバンドパスフィルタの設計にも自信がありません。ですので各段での同調の連動はあきらめて、まずは個々に同調を取る、つまりプリセレクタ方式とすることにしました。

それから新たな受信機をゼロから作るのは大変ですが、ちょうど高1中2受信機を作ったので、これを親受信機とする1st Mix、2nd Mixのみのクリスタルコンバータを作り、全体でコリンズタイプのようなトリプル・スーパー実験をすることにしました。新たに作るコンバーターのブロック図と周波数変換構成は下の通りです。高1中2受信機のBバンド(1.5〜4.5MHzの3MHz幅)を最終VIFに見立てて、ちょうどCバンドに相当する周波数範囲(4.5〜13.5MHz)を3MHz幅で3分割してBバンドに落とし込む構成です。周波数変換の下側の表はイメージも含めて受信できる範囲を検討したもので、局発がイメージにも入らないことなどを確認しました。




回路は下に示すように、なるべく簡素で実験しやすくなるようにしました。電源も高1中2受信機から供給します。1L4で水晶発振、1AC6で周波数変換を行い、これを1段あるいは2段行います。




部品集めで一番困ったのはバンド切換えのロータリースイッチで、昔は段間に距離のあるロータリースイッチも探せば見つかりましたが、今ではほとんど無理です。そこでこれも実験ですから、操作は煩雑になりますが電源スイッチも含めて3つのトグルスイッチでバンド切換えを行うことにしました。このうち2つのスイッチは3ポジション(ON-ON-ON型)のトグルスイッチで3方向切換えを行っています。





全体の外観は、高1中2受信機と並べて(見た目一体化して)使えるようにしました。左右中央付近に縦にアルミ板を立てて、その両側に各部品が付きますから、これも高1中2受信機と同様に、製作、改造、調整等が大変容易な構造となっています。

2つのコイルは、写真フィルム用のプラケースにホルマル線を巻いて作りました。左の写真で下側がANTコイル、上側が約19〜23MHzのIFコイルで す。黒いつまみを付けたバリコンは、どちらもトランジスタラジオ用の260pFのものです。IFのバリコンには、最大70pFのトリマを直列に、30pFのトリマを並列に入れて、約19〜23MHzをカバーするようにしてあります。

結果として、IFはバリコンを中央付近にしておけば幅3MHzの範囲はだいたい良い感度で受信可能で、さらにバリコンを大まかに調整すれば最大感度となり、調整はシビアではありません。コイルが0.5mmのホルマル線を4回程度巻いただけであり、Qが低いのでしょう。操作がしやすいので、これで良しとしました。

またANTバリコンはだいたい4.5〜13.5MHzをカバーしますが、これも大まかに受信周波数付近にしておけば十分受信可能で、さらに微調整すれば最大感度とすることができます。これもコイルが8回巻きでQはそれほど高くないと思います。もし操作しすらければ、抵抗を入れてQダンプすることも考えていたのですが、プリセレクタとして十分機能し操作性も悪くはないので、あえてQダンプはしませんでした。

ところで動作させてまず困ったのは、水晶発振にスプリアスが多くて(高調波だけでなく低調波も多い)、あちこちでスプリアスが受信できてしまうことです。局発のグリッドバイアスはグリッドリークに頼った回路にしてあり、はじめはグリッドリーク抵抗を1st、2ndとも100kΩにしていたのですが、12MHzと15MHzを発振する1st局発のグリッド電圧を計ってみるとバイアスが深すぎて、これではスプリアスが多いのは当然でした。リーク抵抗を2.2kΩまで小さくして、やっと適度なバイアスとなりました。24MHzを発振する2nd局発は逆にバイアスが浅すぎて(ほどんど0V)発振が弱い感じがしたので、リーク抵抗を470kΩに大きくしました。

なお1st局発は12MHzと15MHzとではバイアスが結構違います。クリスタルを切り換える場合は動作点も切り換えるとか、あるいはグリッドリークバイアスに頼る回路は本来は良くないのかもしれません。またスプリアスはかなり減って実用的にはあまり問題なくなりましたが、完全には取りきれていないようで、局発の出力には同調回路を入れるなどした方が良さそうです。

それからもう一つの問題があり、コンバーターを使ってC-1からC-3バンド(4.5〜13.5MHz)を受信しているときも、VIFであるBバンド(1.5〜4.5MHz)の局が受信できてしまうことです。これは親受信機である高1中2の感度が高いことを表わしているのでもありますが、親受信機のコイルのシールドが十分でないと考え、親受信機とコンバーターの間にアルミ板を入れてアースすると(こうすると親受信機のコイルがある程度シールドされる形になる)、かなり状況は改善されます。ただし常にこうしていると親受信機だけで使う場合の感度が下がり、これを改善するにはシールドされた状況に合わせてコイルなどを調整し直さなければならなくなるので、アルミ板を常設するようにはしていません。本来はVIFのコイルなどをきちんとシールドする必要がありますし、またきちんと感度を得るためには1st Mix 前の最前段には高周波増幅を入れるべきでしょう。

しかしいずれにしてもコリンズタイプの実験には十分なりました。高1中2の構想から始めて2年以上の歳月をかけながらまだまだ未完成ですが、やっとここまで来たという感じがしています。



2008.12.20

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